第12回 文化財保存修復学会奨励賞・業績賞・学会賞受賞者

第12回文化財保存修復学会 学会表彰が決定

文化財保存修復学会表彰委員会が第12回の学会賞、業績賞および奨励賞について審議した結果、本年度の各賞受賞者が決定いたしましたのでお知らせします。

【学会賞】 3名

今津節生(奈良大学)
 今津氏は三次元データを用いた文化財の研究を進め、特に前任の九州国立博物館ではX線CTを用いた調査研究を精力的に進めた。氏の研究は、それまで主に製作技法の研究に使用されることが多かったX線CTを、三次元プリンタと組み合わせて、考古遺物や仏像など立体物の精巧な複製や復元を製作し、文化財の構造や技法、過去の修復履歴などの研究につなげたことに意義がある。それだけでなく、資料に忠実で精密な複製を博物館の展示に用いることにより、「触れる文化財」など資料の新たな活用の道を開いた。このように氏の研究は、研究に根ざし文化財の保存に考慮した新しい活用方法もあることを示し、活用のみを重視する意見が多い状況の中、文化財保存分野においてその意義は大きい。また本学会への貢献についても、過去に理事や総会議長などを幾度も務め、その功績は大きい。
 以上の氏の活動は学会賞にふさわしく、ここに推薦する。
内田俊秀(京都造形芸術大学・名誉教授)
 氏は、阪神・淡路大震災以降、文化財防災のあり方について文化財分野において中心的な役割を果たすとともに、本学会の災害対策調査部会の活動指針について整備されてきた。
 2011年の東日本大震災以降からは、文化財防災において、関連分野によるネットワーク構築の必要性を提言し、本学会と全国に展開しつつある歴史資料ネットワーク(史料ネット)との連携構築を積極的に進めるとともに、2014年に発足した文化遺産防災ネットワーク推進会議の有識者会議座長として、これからの文化財防災の体制を考えるなかで大きな役割を果たしてきた。なかでも、従来の議論では「文化財のための防災」に留まっていた「文化財防災」の課題について、広く社会全体の問題として捉えるべきとし、地域防災計画のなかに組み込むことを推進する役割を果たしている。
 以上の氏の活動は学会賞にふさわしく、ここに推薦する。
山崎隆之(愛知県立芸術大学・名誉教授)
 山崎氏は1964年に東京芸術大学を卒業し、当時開設されたばかりの大学院(保存技術)に入学して、伝統的な仏像修理技術を習得するとともに、美術史や彫刻技術なども学んだ。大学院修了後は東京芸術大学付属古美術研究施設(奈良)で、それまでにない新しいタイプの修理技術者として多くの現場に取組み、愛知県立芸術大学に移って後は、積極的に学生達に仏像の修理技術や制作技法を伝えてきた。伝統的な修理技術に基づくだけでなく、美術史や文化財科学の成果も取り入れた氏の活動は、現在の教育機関における修理技術教育の先駆けとなった。また過去に本学会の諮問委員や大会プログラム委員も務めていて、本学会への貢献も大きい。このように文化財保存分野への功績は大きい。
 以上の氏の活動は学会賞にふさわしく、ここに推薦する。

【業績賞】 3名

及川規(東北歴史博物館)
 氏は、収蔵庫における木質系内装材が文化財に与える影響について詳細な分析を試み、博物館収蔵庫の環境のあり方について論考を取りまとめられ、収蔵庫建設における留意事項について貴重なデータを蓄積、公開されてきた。また、東日本大震災以降は津波が与える文化財への影響あるいは被災文化財が保管される収蔵庫環境の状況について積極的に調査をおこない、そこで得られた知見を本学会において発表をおこなってきた。これらの活動は、地方博物館の視点にたった実践研究の成果として大いに評価できる。
 以上の氏の活動は、業績賞にふさわしく、ここに推薦する。
早川典子(東京文化財研究所)
 氏は、漆・膠・糊など文化財の有機質材料の物性を精力的に研究し、有機質文化財の保存に生かすとともに、厳島神社大鳥居の塗装修理など、修復材料の改質研究を進めた。また、酵素を利用した文化財の新規クリーニング方法の開発を代表とした、ポバールなど変質した修理材料の除去や、高松塚古墳壁画の微生物痕の除去方法の開発研究、いたずらにより汚損された文化財建造物、文化財の各種「汚れ」の除去方法について、集中的に研究し除去手法を確立した。氏は研究にとどまらず現場への応用・実践にも力を入れ、文化財の安全を確保しつつ、修理技術者と協同して研究成果を文化財修理に適用し、より良い修理技術を生み出すことに成功した。
 以上の氏の活動は、業績賞にふさわしく、ここに推薦する。
藤原徹(東北芸術工科大学)
 氏は、1995年仏国ツール美術大学美術作品保存修復学科卒業、宮城県美術館を経て、2004年より、東北芸術工科大学文化財保存修復学科教授として、主に立体作品の保存修復に関する研究および教育を行ってきた。修復に関しては、オーギュスト・ロダン作「地獄の門」やレオナルド・ビストルフィ 作「アンヘロ・ヒオレロの墓碑 」など、屋外に展示されている比較的大きなブロンズ作品や大理石の作品の修理に関わり、その他にも、屋内展示作品、木材やガラス、合成樹脂といった素材を問わず、修復処置を行ってきた。立体作品の修復に関して日本では数少ない修復家として中核的役割を果たした。また、東北地方の木造彫刻、衣装箪笥、ひな人形などを、学生教育の一環として、学生に教えながら共に修復を行っていくというスタイルで多くの立体作品の修復を行った。この様に文化財の保存修復に関する教育者としての貢献および同氏の修復活動によって得られた成果は多大である。
 以上の氏の活動は、業績賞にふさわしく、ここに推薦する。

【奨励賞】 2名

大西智洋(合同会社大西漆芸修復スタジオ)
 大西氏は東北芸術工科大学大学院で保存修復を学び、平成12年に(株)目白漆芸文化財研究所に入社され、重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝)の室瀬和美氏のもとで漆芸文化財の保存修復に取り組んできた。平成22年には九州支部に異動し、九州国立博物館内の修復施設にて、漆芸文化財の保存修復を担っている。その後、合同会社大西漆芸修復スタジオを設立し、漆芸文化財の保存修復とともに、学会等で、材料の劣化メカニズムの研究や、保存修復作業と調査から得られた材質・構造の研究報告をおこなうとともに、修復作業における理念や価値観についての問題提起をおこなった。九州で開催される本学会の様々な行事等においても積極的に協力・参加され、学会の運営にも貢献している。
 今後の氏のさらなる学会へのかかわりや漆芸文化財の保存修復での研鑽や活躍を期待し、ここに奨励賞に推薦する。
李壃(筑波大学・学術振興会特別研究員)
 経年劣化紙試料の強制劣化試験に関して懸垂法とチューブ法を実施して、両者を比較し、紙の劣化に関する研究の水準は高い。またアレニウスプロットも行うなど、その実験量は驚異的に多く、実験精度も高く、その後の研究の進捗への寄与は高い。これらの成果はすみやかに学会誌に報文6本としてまとめられている。さらに、被災文化財の処置に関する研究も行い学会誌に報告しているが、重要な基礎論文として高い評価を受けている。木部徹氏の勉強会への参加など学外でも多方面に勉学し、その交流関係も広い。韓国からの文化財関係者への通訳としての対応も幅広く務めるなど、日韓文化財交流にも寄与している。2016年度後期には母校である東京学芸大学で、非常勤講師として後輩の指導にあたるなど幅広く活躍している。
 今後の氏のさらなる学会へのかかわりや紙質文化財の保存科学研究の進捗や活躍を期待し、ここに奨励賞に推薦する。

■ 過去の表彰者(敬称略)

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